こんな傘があるの知っていますか?

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ある時、コンビニで買い物を済ませると、雨が降り始めていました。すると、店員が、この傘をどうぞと渡された水玉模様の水色の傘。その時の傘のお陰で、一つの縁が結ばれました。 ある時は、優しい祖母からの贈り物で、高校生から、新社会人となり、そこで出会った人と長い付き合いを兼ねて、結婚し、少々、色褪せた淡いクリーム色の傘。その傘と共に生きたお陰で、優しい祖母の思い出と共にたまに思い出される日は、優しい日なりました。 ある時は、小学生の頃、友達同士のチャンバラや傘を振り回し、傘を向きを全部、上側にして、水をためた黄色い傘。その遊びは時として、お気に入りの傘が壊れしまう事もあるでしょう。壊れた傘を持ち、親に怒られましたが、ふと思い出すほろ苦い経験となりました。 ある時は、ある時は、ある時は、…ささやかな幸せとして誰かの記憶に、ある傘。 その傘は、とある家族に現れました。その家族の幼い一人娘がベランダに出され一人ぼっちで蹲っていました。部屋の中でも、物は飛び交い、怒号や言い合いが起こっていました。蹲って顔を上げなかった娘さん。そこに、空からベランダに向かって、白い傘が、降ってきました。蹲る彼女のベランダに止まり、カツン、カツンと、ベランダの柵にゆらゆらと当たって、彼女の顔が上がりました。 揺れる白い傘に釘付けになる彼女は、その傘に触れたいと思いました。思いが伝わったのか、白い傘は、揺れるのを止めて、持ち手の部分を彼女に見せるように向けました。細い手に細い足は、その白い傘に向かって、歩き、その持ち手にも触れる事が出来ました。触れた瞬間、その白い傘と痩せた彼女は、無機質のコンクリートの団地から、広がる星空へ、消えていきました。 無数の傘の数だけの思い出の一部。あなたは、こんな傘があるのを知っていますか?
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!