40人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
第二話 今まで結果
九能が話し出すと、カシルがコマンダージェイに耳打ちをした。
どうも英語で話しているらしく、甲角が苛立ちを込めて言う。
「おい、外人ども。コソコソ話してんじゃねよ。日本語で喋れ」
それを聞いて沁慰が笑みを浮かべた。
その後ろで、付き添いのダークカラースーツの男もクスッと笑う。
沁慰は、紫煙を吐き出しながら言う。
「今どき英語もわかんないわけ? そりゃあなたに愛想をつかす人がたくさんいるのもしょうがないわねぇ」
「てめぇ……二回目だぞ」
甲角がテーブルの上にあったウイスキーの瓶を叩き割った。
それを沁慰に突きつける。
コマンダージェイは、それを見て笑っている。
その時――。
割れたウイスキーの瓶を突きつけている甲角の喉元へ、いつの間にかナイフが突きつけられていた。
朝鮮人の若い男――。
逆立てた短い髪に、切れ長の目でスラっとした細身の体躯。
灰色と黒のストライプシャツに、タイトなスラックスを穿いている青年――九能の運転手を務めているラオンだ。
「会長さん、すみません。でも、九能さ……いや、うちの首領の話がまだ途中なんですが」
ナイフを突き立てて、丁寧にいうラオン。
あまりにも一瞬の出来事だったので、甲角の後ろにいるスキンヘッドの男は、何もできずにただ立ち尽くしていた。
甲角は、眉間に皺を寄せ、片方の口元を上げて言う。
「おめぇ、まだ十代だろ。コリアンマフィアは学校の代わりもやってんか」
「十代でも役には立てますから。今がまさにそうです」
それを聞いて、沁慰が嬉しそう首を傾げた。
「素敵ねぇ。ラオンくんカッコいい」
艶っぽくいう沁慰。
甲角は、舌打ちをした後に割れたウイスキーの瓶をテーブルに置いて、ソファに腰を下ろした。
そして、九能が笑みを浮かべてようやく話を始める。
今までも何度か小競り合いはあったが、ここまで互いの繁栄を維持できていたこと――。
荒川靖子の件――。
やはり派手に動き回る勢力が出てくると、すべてが壊れてしまうこと――。
「この街のルールは脆く、そしてか弱い。だからこそ葉瑠田会、チャイニーズマフィア、コリアンマフィアの三組が睨み合うことで維持ができていた」
それを聞いた三人――。
甲角は、両腕を組んで納得したような顔をしている。
沁慰は、二本目の煙草をくわえて、付き添いの男に火をつけてもらっていた。
そしてコマンダージェイは顎に右手をやり、穏やかな表情で笑みを浮かべている。
九能は続ける。
「過去の話ですが、白井不動産·新宿支社の社長、福富優一、葉瑠田会の直参·伊勢組の組長、伊勢聡などの増長を思い出せば、結果として二人がどうなったかでわかるはず」
情報屋のときとは別人のような九能。
同じように丁寧な口調なのだが、言葉一つ一つに重みが感じられた。
ヘラヘラと笑っていた情報屋は、もうそこにはいなかった。
コマンダージェイは笑みを浮かべて思う。
……そして今は私っていう話か。
慎重派だな、ミスター九能は。
「それを肝に銘じておいてください。我々が互いに利益のみを追求し、好き勝手に動くようになったら――」
九能は、ゆっくりと間を開けてから言う。
「ここにいる全員が死にます。結果には勝者も敗者もいない……それだけは覚えておいてください」
最初のコメントを投稿しよう!