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プロローグ
ジャングルブーツを履いた、深緑の上下ミリタリールック姿の少女が、真っ白な髪を振りながら階段を駆けのぼる。
自分の進むべき道へ向かう。
いつだって白髪の少女――深・四龍は、迷わずに飛び込んでいく。
だが、迷わず進んだ道はいつも悲劇への入り口だ。
私は今でもモルモットなのかもしれない、とスーロンは胸のうちで呟く。
彼女には、やらなければならないことがあった。
そのために今も悲劇へ飛び込み続けているのだ。
スーロンの手にはトカレフ TT-33が握られている。
もう上の階は近いはずだ。
階段を上がったところで、横から迷彩の野戦服に目隠し帽姿の男に襲われた。
わかっている。
スーロンにはわかっている。
ここにはあの男の部下がうろついている。
中東にいたときからそうだ。
まずは兵を片付けないと、司令官にはたどり着けない。
――この街は夜の間でも明るい。
たとえ何時になろうが外を歩けるし、空腹を満たすことも、観たい映画も読みたい本も手に入れることができる。
世界で一番平和な国、日本――。
墓標に似た建物が並び、それはまるでこの街の安全さの裏で死んでいった者たちを供養しているようだ。
スーロンは、不意打ちをしてきた目隠し帽姿の男の攻撃を避けた。
相手の持っていたコンバットナイフが体を掠める
スーロンの白髪――後ろに束ねた三つ編みが、まるで白蛇のように揺れる。
そして距離を取り、銃弾を二発撃つ。
見事に心臓に当たった。
だが、防弾チョッキを下に着ていたのだろう、怯まずに向かってくる。
痛みになど屈せずにまた襲い掛かって来る。
目隠し帽姿の男は、がっちりとした体躯。
小柄なスーロンが掴まれたら、力ではけして敵わないだろう。
目隠し帽姿の男のコンバットナイフで立て続けに斬りつけてくる。
スーロンは、男の後ろに回り込んだと思ったら完全に気配を消した。
この近距離で男はスーロンを見失う。
その一瞬の隙をついて、男の後頭部に胴回し回転蹴りを叩きこんだ。
だが、体重が軽いスーロン蹴りでは突き飛ばすのが精一杯だ。
だが、スーロンは知っている。
そんなことは予測できている。
男と距離ができ、間合いをとる。
そして今度は眉間に発砲。
目隠し帽姿の男は、空いた穴から血を流して、その場に沈んでいった。
そこへ、銃声を聞いて駆け付けた男たちが集まって来た。
相手は三人――。
全員、目隠し帽姿だ。
スーロンは、トカレフ TT-33を三人に向かって撃つ。
だが、すでに弾は切れていた。
現れた三人は、警戒しながら拳銃を構える。
スーロンが横へ飛び転がろうとしたそのとき――。
派手な銃声とともに、三人の男たちは頭から血を流してぶっ倒れた。
そこにはイエローブロンドの髪の女性――アウレリア·ミドリカワが立っていた。
スーロンがアウレリアを睨みつける。
アウレリアは、それを見て薄ら笑いを浮かべていた。
彼女の開いた口から見える八重歯に、天井にある照明が反射した。
金髪のポニーテールを揺らし、黒と黄色のレザージャケット、黒のレザーパンツは体のラインがわかるほどタイトなものを着ている。
アーモンドアイの奥にあるエメラルドグリーンの瞳をギラつかせ、虚ろに微笑む。
アウレリアは、着ていた黒と黄色のレザージャケットの下にあるショルダーホルスターからIMIジェリコ941を抜いた。
スーロンの表情と体が強張る。
アウレリアは、右手に持っていたマテバ 6 Unicaをスーロンへと放り投げた。
「使えよ、お前の親父を殺った銃だ」
アウレリアの顔から虚ろな笑みが消える。
スーロンは、素早くマテバ 6 Unicaを拾い、一気に距離を詰めた。
「レリア……」
「相変わらず素早いな、スー」
今二人の銃は、互いの眉間に照準を合わせて沈黙していた。
互いに見つめ合いながら、静寂が流れる。
「あなた……知っていたんでしょ? 私があの人の娘だってこと……」
「だったらどうだっていうんだ?」
二人は同じ時期に日本へ来た。
そして、その後に同じ職場で働き、寝食をともにして暮らした。
二人はこの国へ損失が理由でやってきた。
それがこれから重なる――。
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