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「6月15日までに萌花に結婚相手が見つからなかったら、俺が萌花の花婿になります」
お父さんの無茶振りの返事に困っていたら、颯ちゃんが突然そう言い放った。
わたしが驚いて颯ちゃんの方を見て見上げると、颯ちゃんはいつもみたいに手を繋いでない方の左手でわたしの後頭部を撫でた。
「あのいけ好かない男なんかより颯汰くんの方が断然いい。お隣に連絡して今日は祝いをしよう!!」
お父さんの指示でお母さんが颯ちゃんの実家に駆けて行った。
お父さんも『お酒、お酒……』と医者からお酒の量を制限されてるのに台所にお酒を探しに行った。
「颯ちゃん、わたしと結婚してくれるの?」
「萌花がそれでいいっていうならな。俺は萌花が中学生になった頃からずっと萌花だけを愛してた」
「じゃ、なんで、この2日間、わたしを抱いてくれなかったの?」
「結婚が破談になって自暴自棄になってる萌花には手を出せない。萌花が俺の事を本当に愛してくれてるなら、萌花に触れたい……。これでも必死に堪えてた」
颯ちゃんが赤面してわたしに顔を背けて言った。
「わたし、颯ちゃんの事、生まれた時からずっとずっと大好きだった。離れても大大大好きだった。颯ちゃん、わたしの旦那さんになって!!」
お父さんとお母さんがいない事をいい事に、わたしは颯ちゃんに抱きつく。
「生まれてすぐは……ないだろ。いうなら、物心がついてだろ。俺もいつも俺の後ろをついて回る泣き虫な萌花を慰めるのが俺の役目で、危なっかしいからいつも気がついたら萌花を気にしてて、萌花の事ばかり考えてた。それは大学進学で実家を出てから今も続いてる。だから、彼女っていう存在ができなかった。一昨日、雨の中でふと目に入ったカフェで萌花と再会できて良かった。偶然という必然なのかもしれないな」
「颯ちゃんは、わたしがいつも泣いてたら駆けつけてくれて一緒に悲しんでくれて慰めてくれる。颯ちゃんは雨の日の傘で、わたしと相合傘で歩いてくれる」
「その理屈、意味わからん」
颯ちゃんはそう言って笑ってくれた。
意味不明かもしれないけれど、颯ちゃんはわたしにとって傘みたいな人。
泣き虫の涙と悲しみの渦に入ってるわたしの悲しみを受け入れてくれて励ましてくれる。
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