イト

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「今宵の演目は人形使いによる「人形の踊り」です、あのかの有名な人形使いカレイドさんがやってきてくれました!!それではカレイドさん、お願いします」 よく通る男の声が、星空が散りばめられた空の下マイクを通し響いた、暗がりのせいで姿は見えないが「カレイド」という名前を聞いて人々は嬉しそうに声を上げたり、指笛を鳴らしたり、拍手を送り盛大な歓迎を見せた。 町の中心に作られた仮設ステージのスポットライトが灯りを放ち、ぺたりと床に足を崩した姿勢で座って居る少女の姿を照らし出すと拍手が止み、誰もが見目美しい姿に熱いため息を吐いた。さらりと長い銀髪はライトに当たってきらきら反射し、俯いた顔立ちはとても美しくガラス玉のように透き通った瞳は床を見つめている。 少女は人ではない、関節部分に球体があり人形であることを示していた。 そこへ美しく伸びやかなアコーディオンの音が響くと彼女の瞳に光が宿り、立ち上がる。手足をしなやかに伸ばして踊りだす。 人が踊っているのではないかと思うほどの流暢さで、されど人では出来ぬ動きをする非現実さで、ひとときの感動を人々に送る。 誰もが少女の動きに魅了されていた。 どの角度に動いても美しく、くるくると回る彼女はまるで万華鏡をのぞいているかのような美しさがあると、見知らぬ誰かが言っていた。 観る前はよく分からない感想だと思っていたが、現実にこの光景を目にすればなるほどと頷いてしまう非現実的な美しさがここにはあった。 人形の少女は踊る、踊る、踊る、客席が何人集まっていようと、2対の瞳にどれだけ見つめられいようと緊張など、恐れなど、なにもなかった。 踊る、踊る、踊る、スポットライトに照らされて、いくつもの瞳に見つめられて。 美しく踊れば踊るほどマスターは喜んでくれる、綺麗だと微笑んでくれる。 言葉を発せぬ彼女は踊ることにより主に想いを告げている。 曲が終わり少女はぺたりと足を床につけて動かなくなった。 客席はしばらくの間しんと静まり返っていたが、じわじわと人々の心が満たされていく、 「ブラボー!!」 ひとりが立ち上がって大きく拍手をするとそれが起爆剤だったように皆が立ち上がって爆発的な拍手が会場を包んだ。 その音はしばらく止むことがなく、舞台全体が灯りに照らされその姿が浮彫になった人形使いの青年は、恥ずかしそうにはにかんだ。
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