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次の日になると大勢の人達に惜しまれながらも、出発することにした。
旅の手段は徒歩であったり、汽車であったり、気まぐれに変えているが今回は汽車に乗って南へ行くことにした、丁度黒く光る汽車が丁度駅に到着したところで、青空に黒煙を噴き上げて汽笛を鳴らしている。
青年は少女を連れ立って汽車に乗り込んだ、汽車のなかは赤で統一されていてシックな内装になっている。コンパーメントを覗き込みながら座れるところを探す、この町から乗り込む者はいなかったがそこそこに込んでいた。
後ろから少女は大人しくついて来きて、何人かが姿を見て声を上げたが声をかけてくるものはいなかった。
開いている場所を見つけ、椅子に座ると少女は正面に座る。視線は下に向き手足はイトが切れたようにだらんとしている、青年は頬にかかった髪を払ってやり視線を少女から窓の外へと移す、町の駅が後ろ後ろへと流れて駅を抜けるとだだっ広い草原に変わった、しばらく景色をぼんやりと眺めていると騒がしい足音が聞こえてきて、青年の座っているコンパーメントの前で止まった。
「やややや!噂は本当だったんだ!」
奇妙な出で立ちをした男が飛び込んできた、イエローのレインコートにフードを被ってうさぎみみのついた帽子をさらに被り、左脇には人形の腕を抱え巨大なショルダーバックをたすき掛けにして、さらに巨大なリュックを背負っていた。
「君が噂のカレイドさんだね!」
人形の腕を足の間に挟んで両手で握手を求められた、いぶかし気な顔を隠すことが出来ないまま、それに応じるとぶんぶんと上下に振り回された。
「わたくし、ここから5つ駅を越した場所で人形師をしています!やや、これがあなたの人形ですね!」
唐突に手を離されて、人形師と名乗る男は再び人形の腕を左脇に挟んで少女をしげしげと眺めた。
「やー素晴らしい、素晴らしい!」
「人形師とおっしゃいましたね、この子のメンテナンス出来るでしょうか?」「もちろん!もちろんですとも!なんでしたらお昼もごちそうしましょう!」
人形師の男は、やー嬉しいな、素晴らしい!とひとりぶつぶつ呟いて、店の場所を言うわけでもなく、ふんふんと鼻歌を歌いながら行ってしまった。青年は呆気に取られて結局場所を聞くことが出来なかったが、運が向けば会えるだろうと呑気に思いながら目を閉じた。
ふと目を覚ますと汽車がのんびりと停車するところだった、窓の外を眺めるとレンガ造りの可愛らしい駅舎が見えて駅名に視線を向けると、ここがあの人形師が言っていた町だろう、腰にぶら下げている懐中時計を見るとそろそろお昼になる。
あの奇妙な人形師がメンテナンスも出来ると言っていたし、今回はここにしようと腰を上げ少女の左手を救い上げるように取ると、彼女は立ち上がって手を離しても付いて来た。
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