第一章 嘘の代償

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すっかり意気投合していた梅原さんと東野さんとここ最近いつも一緒に行動していた。 そんな日々を送っていたある日── 「あっ、いけない」 「どうした」 「お財布忘れちゃった。ちょっと取って来るからふたりとも先に行ってて」 「OK。席取っとくねー」 お昼休憩になると私たち三人は社員食堂でご飯を食べていた。世間的にブームになりつつある健康的な社食メニューがこの会社にも導入されていてお値段以上の健康で美味しいランチがいただけることですっかり社食贔屓になっていた。 「いけない、いけない。お財布を忘れるなんて抜けてるよ、私」 そんな独り言を呟きながら急いでロッカールームへと向かっていた。しかしロッカールームに続く細い廊下の中央にまるで道を塞ぐように立っている人がいた。 「久しぶりだな」 「……内野宮さん」 「なんか最近会わなくなったよな」 内野宮さんと会ったのはあの夜以来。一週間ぶりのことだった。 「……あの、通して下さい」 「通ればいい」 「……」 何も悪いことはしていない、そう思って堂々と内野宮さんの前を通り過ぎようとした。瞬間── 「ふざけるな」 「?!」 いきなり腰をグッと掴まれ引き寄せられた。 「な、何するんですかっ」 「なんで俺を避けているんだよ」 腰を掴まれたまま顔を間近に寄せ低く呟かれた。 「さ、避けてなんか──」 「避けているだろう」 「っ」 凄い形相で睨まれ、怯んでしまった私は言葉が出せなかった。 「ちょっと来い」 「!」 そのまま腕を掴まれ内野宮さんに引きずられてしまっていた。
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