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悶絶する志馬をよそに、久我の発した言葉にピクリと反応した女が一人──
「オーラ……?」
それまでつまらなそうに机に突っ伏していた明智が、むくりと上体を起こした。
「今、オーラって言った?」
なんだ、この反応は──志馬は、恐怖の浮かんだ目を明智に向けた。なに非科学的な事を言ってるんだこの坊主野郎、とでも罵られるのだろうか。
「オーラが見えるの?」
どちらかというと美人であるのに、なんだろう、この明智という女性は、どこか陰気臭いというか、儚い、というのではなく、そう、非科学的に言えば、悪霊にでも取り憑かれているかのような雰囲気をしている。
「えっ……あっ……」
何と答えたらよいのか解らず、更に汗の量が増える。
灰色の、キャスター付きの椅子をがちゃりと鳴らして立ち上がった明智は、久我の背後にある薄汚れたホワイトボードにつかつかと歩み寄ると、そこに大きく「オーラ」と書いた。
「オーラ。スピリチュアルの世界では、生体が発する霊的エネルギーと言われている」
ペンを持ったまま振り返る。華奢で小柄な明智は、まるで教師のようだ。
「これは中国だと気功、インドであればチャクラなどと言い換えることができる。つまりは、生命体はよく解らない物質を出していると思われている」
説明しながらさらさらと「気功」「チャクラ」と書き加えていく。ノートをとるまでではなさそうだ。
「“あの人はオーラがある”とか“近寄りがたいオーラ”とか、日常でもたまに耳にすることがあるだろう。もともとオーラという言葉は、香りや輝き、風なんかを意味するラテン語に由来する」
今度は「香り」「輝き」「風」と書いた。ノートをとったほうがいいのだろうか。
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