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「香りも風も、通常目には見えない。だが嗅覚や触覚を通して、我々はそれらを感じることができる。つまり──」
「はいストップ、そこまで」
久我がパンパンと手を打ち鳴らした。講義を中断された明智が、忌々しげに久我を睨み付ける。そんな明智を気にも留めず、久我はくるりと志馬の方へ顔を向けて、にっこり笑った。
「だいたい解ったかな?」
はあ?
何が?
今ので何を理解しろと?
「志馬君。君はオーラを見ることができる」
「……キャ───」
「恥ずかしがる事じゃない」
真剣な眼差しでぴしゃりと断言され、志馬は悲鳴を呑み込んだ。
「私は、君のような人材を求めていたんだ」
「……はい?」
思わず聞き返した。
物心ついた時には既に見えていた──人や動物、昆虫に至るまで、生きたものの体をふわりと包み込むような、不思議な色。
当然、誰にでも見えるものだと思っていた。だから、母に思いきり否定され、烈火の如く怒られた時は、志馬自身を、人格や存在そのものを否定されたかのように感じた。忘れもしない、4歳の夏の日だった。
ただ、それでひとつ学んだ。体を包む色は「普通の人」には見えない。「普通の人」と違う事を言ってはいけない。
「この明智君はね、オーラとか、そういったものについて研究を続けているんだ」
「現代の科学ではまだ解明されていないもの、だけど“視る”ことができる人間は確実にいる」
久我の言葉を継いだ明智が、突如大きな音をたてて机に手を付き、志馬の方へと身を乗り出した。見開いた目が怖い。
「オーラを見ることができる人間は限られている。だが、たとえ社会的少数派だからって、決して恥ずべき事ではない。必ずや私がオーラを解明してみせようぞ」
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