Episode 1

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 視線を斜め上に向けて胸を張る久我をぼんやり見つめながら、やっぱりやっちまったと思った。この部屋のドアを開けた時、部屋にいた二人を見た時の「やっちまった感」は、間違いではなかったらしい。 「ここでうだうだしていても仕方ない。巡回に出るぞ」  遠くへ行っていた志馬の意識が引き戻された。引き戻されたくなかった。 「歩きながら話そう」 ***  東京湾に面したこの街は、いつも風が吹いている。爽やか、と言えないこともないが、大抵は強風だ。暴風の時もある。  今日はまだ強風とまではいかない。それでもつい目を細めてしまうような風のなかを縫うようにして、久我と志馬は並んで歩いていた。  午前10時をまわるところだ。駅前に広がる片側3車線の大通りは、朝よりは閑散としている。だが駅の改札口は、平日にもかかわらず、多くの観光客を絶え間なく吐き出していた。 「ほら、あそこのカフェ──」  ふと久我が、通り沿いの洒落たカフェを示したので、志馬は注意深く目を向けた。あの店に何かあるのか、それとも店に来る客が問題なのか。 「あそこのサバランは絶品なんだ」  ……………で?  犯罪はドコデスカ。 「お気に入りの店だったんだがなあ。先月テレビで紹介されてしまってね。いつ行っても混んでるんだ」  心底残念そうに顔を歪める久我だが、志馬にとっては心底どうでもいい情報である。
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