Episode 1

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 逃走するか──志馬が身構えた時だった。 「やあ」  なんとも呑気な声が頭上から降りかかった。隣を見ると、久我が男に向かってにこにこ笑いかけながら、片手を上げている。 (……はあ?) 「見つけるのにもっと手間取るかと思ったけど、あっという間に見つかってよかったよ。やはり私たちは運命の赤い糸で結ばれているんだな」 「なに寝ぼけたこと言ってんだ。立ったまま目ぇ開けて寝てんのか?」  男はその秀麗な眉をぐいと寄せた。  全国指名手配中の容疑者、という訳ではなさそうだ。犯罪者共通の、禍々しい赤黒い色も纏っていない。  それにしても、随分と綺麗な男だ。男に対しての形容ではないだろうが、その言葉が一番しっくりくる。あとは、涼やか、とか、神秘的、とか。派手な華やかさはなく、花に例えるなら薔薇ではなく桔梗。ところでこの男は何者だ? 「志馬君」 「はっ」  久我の声に反射的に反応してしまう自分が犬のように思えてきた。 「こちらが我が久我班の最後の一人、椎野巡査長」 「えっ、この人が?」  久我行き付けのバーのバーテンダーかと思った。 「俺じゃ何か問題か」  椎野の、耳に心地よい、やわらかな声音──いや、心地よくなってる場合ではない。 「あ、あの、志馬巡査です。本日付で──」 「ああ、オーラが見えるってのはおまえか」  なんなの第5係の人たちって。なんで普通にちゃんと挨拶させてくれないの。 「言っておくが、俺はオーラってものは見えない。俺自身なぜこの班にいるのか解らねえ」 「おいおい、ひどいな椎野君」  いかにも悲しそうに、久我の太い眉が下がった。だが次の瞬間には、既に見慣れたものとなった輝く笑顔になり、椎野の肩にぽんと腕をまわしていた。
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