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「この椎野君はね、くたびれた吸血鬼のような顔をしてるが、絶大な癒しのパワーを持っているんだ! まさに君が見たオーラの色そのものなんだよ」
癒し……?
警察官にとって必要なものは、正義感と責任感、冷静な判断力、そして強靭な肉体と精神力だ。そのベースには、思いやりと優しさがある。
え、癒し?
犯人を癒して改心させる系?
それって警察官の仕事じゃ──
「うおおう!」
突如、久我が妙な声を上げて体を震わせたので、志馬の思考は中断された。訝る志馬の視線の先で、久我がポケットからぶるぶる振動する携帯を取り出す。
「明智君からだ──もしもし」
口もとに手を当て、無意識なのだろう、背をまるめて話す久我をぼんやり見ていたが、ふと突き刺さるような視線を感じて顔を向けた。
椎野の、猫のようなまるい目がじっと己を見ていた。その瞳も髪も、あまりに黒くて、蒼い光を含んでいるように見える。ふと「烏の濡れ羽色」という言葉を思い出した。
「驚いたろ」
不意の椎野の言葉に、志馬はきょとんとした。
「オーラだのなんだのって。なに非科学的なこと言ってやがるって思ったろ」
「あー……まあ」
志馬が警察官の道を選んだのも、そういう、スピリチュアルだのオカルトだのといった世界から最も離れた場所にいたいというのが理由のひとつだ。それが何故。何の因果があって。
「おまえ、本当に見えるのか」
オーラ信奉者の部下に疑われるとは思ってもみなかった。志馬は内心ちょっとムッとした。
「ああ、見える。どうやって証明したらいいか解らないけどな」
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