プロローグ

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 そんなことをぼんやり考えていたら、黒猫に似た男と不意に目が合い、ウエハラはびくりとしてうろたえた。黒猫男のぎょろりと大きな二重の目は、すべての物事、その真理までをも見透かしているかのようだ。思わずウエハラは目を逸らした。 「ずいぶんと物騒なモン持ち歩いてんだな」  黒猫男はちらりと足もとのリュックに視線を落とした。 「包丁が2本に、サバイバルナイフが1本。拳銃もあるのか」 「ご……護身用ですよ」 「こんな御大層なもので武装しなきゃならねぇほど、何かヤバイ事しでかしたのか」 「ち、違……だって今、みんな拳銃くらい、持ってるじゃないですか。いつ犯罪に巻き込まれても、おかしくない時代ですよ。この程度の武器じゃ、足りないくらいだ」 「ほう……」  黒猫男はひょいと腰をかがめると、リュックの中から拳銃を取り出した。 「コルトディフェンダー」  手のなかにすっぽりと収まるシルバーの銃身が鈍い光を放つ。 「まあ、一般的な護身用だが」  凶悪な無差別殺人事件が増加の一途を辿り、護身用として銃の所持を許可するとの法改正が行われたのが10年前。以来、銃の保有者は増える一方である。 「一体何人殺すつもりだ?」  黒猫男の言葉に、一瞬にして体じゅうの血液が逆流した。 「ち、違うって言ってるでしょ! 護身用です、護身用!」 「テメエ、いい加減白状しやがれ!」  襟首を掴む坊主鬼の拳に力がこもり、ウエハラの額に坊主鬼の額がぐりぐりと押し付けられた。目は血走り、口の端からは泡が噴き出している。  薬物か何かだろうか──自分よりこの鬼のほうがヤバイだろ、と震えながらウエハラは思った。 「オイ、本当のこと言えってんだよ、この武器オタがあっ!」 「ヒッ! たっ、助けてください!」  涙で潤んだ目を黒猫男に向けて叫ぶウエハラの声は、語尾が掠れていた。
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