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涙の滲んだ目で少年を見ると、だが相変わらず無表情で、冷めた眼差しで志馬を見ていた。
「あ、ご、ごめん」
なぜか謝ってしまった。謝ったところで少年に変化はない。呆れる、鼻で笑う、そっぽを向く等でいいから、何かしら反応が欲しかった。
さあ、どうしようか。鋼鉄の鎧で覆われた少年の心を、どうしたら開くことができる?
痛む大腿二頭筋をさすりながら、志馬は窺うように少年の顔を覗き込んだ。
「あの……そっち、行ってもいい?」
「だめ」
即答だった。しかも少年は、傍らに置いていたのだろう、コンパクトな拳銃を両手で構えると、その銃口を志馬へと向けた。
「えっ……ええっ!?」
驚いたのは公務員二人である。ずざっ、と靴底を滑らせ、僅かに後退した。
オモチャの拳銃……だとは言い切れない。親の拳銃を持ち出した可能性は高い。
ふざけんな。お子さまの手の届かないところに保管するよう、説明書でも、口頭でも、さんざん注意されただろうに。
「あ、あの、えっと、撃たないで……」
相手は年端のいかない子どもだ。軽い気持ちで引き金を引いてしまうかもしれない。なるべく刺激しないよう、優しく説得すべきだ。
「そ、それ、撃ったらさ、おうちにいられなくなっちゃうよ……?」
「別に、いい」
淡々と、だが毅然とした口調で少年は言った。家にいられなくてもいい、それはどういう意味だ。
「あ、でも、あの、お兄さんは、まだ死にたくないなあ」
理由を探るのは銃を下ろさせてからだ。同情を誘う作戦に切り替え、志馬は泣きそうな表情をぎこちなく浮かべた。
「……おじさん、死にたくないの?」
食いついてくれたか──志馬は何度もガクガクと首を縦に振った。周囲にキラキラと汗が飛び散る。
「なんで死にたくないの?」
「……へ?」
まさか突っ込んでくるとは思わなかった。
なんで。
なんで死にたくないのかだと?
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