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志馬は少年を見つめたまま暫し考え込んだ。死にたくない理由……死にたく……駄目だ、考えれば考えるほど、死にたくない理由が解らない。
「えっと、あのー……そりゃ、だって死ぬの痛そうだし、苦しそうだし……」
嗚呼。俺は痛そうで苦しそうなのが嫌だから生きているというのか。生きるとは何だ。
「それにそのー……俺まだ味倶留亭の味噌バターラーメン食ってないし……」
嗚呼、嗚呼。俺の人生は味噌バターラーメンで成り立っているのか。
「読んでる漫画のラストがどうなるのかも気になるし……」
俺が生きてる意味って。
椎野だったらどう答えただろう。死にたくない理由──「そんな事いちいち考えてねえ。生きてるから生きてんだ」と、きっぱり言いそうだ。
「生きるのって、楽しいの?」
「は?」
質問が変わった。
生きるのは楽しいのか?
マニュアル通りの答えなら、「生きていると楽しい事も嬉しい事も、辛い事も悲しい事もある。それが生きるという事だ」といったところだろう。
だが、この高宮少年が、そうした答えに納得してくれるようにはとても思えなかった。
きっと違う。彼はそういう答えを求めているのではない。
「……生きるのって、正直しんどいかな」
相手が子どもであるという事を一旦忘れ、志馬は綺麗事を並べるのをやめた。
志馬の答えに、一瞬少年の目が見開かれた。
「毎日仕事行かなきゃなんないし、でも仕事しないと給料もらえないし。学生ん時はまわりがみんなして勉強しろ勉強しろってさ。そんなに勉強が大事かよ!って怒鳴ったら、父親にグーで殴られたなあ」
「ワイルドな父親だな」
志馬を楯にしたまま明智がぽそりと呟いた。
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