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「母親は輪をかけてワイルドだぞ」
「そんなに勉強が嫌だったのか」
「どうだろ……強要されんのが嫌だったのかもな」
「ああ、なんかそれ解る。私も古文とか経済とか大嫌いだった」
「あはは! 経済はともかく、古文なんか、将来なんの役に立つんだとか思ったよ!」
「そうそう。学ぶのが楽しいって思えるのは、大人になってからだよな」
大人、という言葉に二人ははっとなった。うっかり高宮少年の事を忘れていた。
恐る恐る少年に目を向ける──少年は呆気にとられたかのようにぽかんとしていた。銃口は僅かに下がり、黒い靄は勢いを失い、代わりに灰色のオーラが増している。
「あー……、ごめん。質問、なんだっけ」
申し訳なさそうに志馬が言うと、高宮少年は二人を見つめたまま、おもむろに銃を降ろした。よっしゃあ!と志馬は心のなかで拳を振り上げた。
「おじさん、勉強、嫌いだったの?」
「君は勉強が嫌いなの?」
質問に質問で返す。これは少年の気持ちを引き出すのに最適な方法かもしれない。志馬の問いに、少年はこくりと頷いた。
「どうして嫌い?」
姿勢を低くして、少年の顔を覗き込むようにしながら、ゆっくりと近付いていく。少年の手が銃に伸びる事は、今のところなさそうだ。
「わかんないんだもん……」
少年は目を伏せ、拗ねたように口を尖らせた。
「あー。わかんないと、つまんないよなあ」
ごく自然な動作で、志馬は少年から1メートルほど離れた位置にどさりと腰をおろした。明智も数歩、ゆっくりと少年に近付く。
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