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「俺は、好きで、このしゃべり方なんじゃない!」
涙がひとすじ、ウエハラの頬を伝った。
きっと誰にもわからない。理解してもらえないのだ、このみじめな気持ちは。
「しゃべり方をからかわれたのか」
更に黒猫男が問う。認めてしまうのが癪で、だがウエハラは、ややためらってからこくりと頷いた。
「小さい頃から、そうだった……わざとだろう、とか、ウケ狙ってんのかとか……気持ち悪い、とか」
「別に気持ち悪いとは思わねぇが」
「一人が言い出すと、みんなが、言い出すようになるんですよ」
「俺は、意識して作られた声だのしゃべり方ってのは嫌いだ。わざとらしいし、空々しくて、すべてが嘘っぽい。けどおまえはそうじゃねぇだろ。怒鳴ってもそのしゃべり方だったしな。おまえの言う事なら、俺は素直に信じられるぞ」
顔を上げたウエハラは、目を見開いていた。その両の目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
不思議な感覚だった。黒猫男の、やわらかな低い声音を聴いているだけで、心が穏やかに凪いでいく。
「そんなふうに、言われたこと、なかった……親にさえ、しょうがないって、突き放されたのに」
「まあ、しゃべり方は確かにしょうがねぇよな。ただ、テメエはもっと自分の言葉に自信を持て。さっき話した時みたいにな」
黙って二人のやり取りを聞いていた坊主鬼の志馬が、ふうっと小さく息をついた。
「……完璧に消えたぞ」
志馬の言葉に、頬を涙で濡らしたまま、ウエハラは首をかしげた。
「あの……さっきから、何なんですか? 何が、消えたんです?」
「“負のオーラ”だ」
「……はあ?」
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