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すべての分野において秀でている人間などいない。皆それぞれ得手不得手がある。人は互いにそれを補いあって生きているのだ。
しかし、学校というところはすべての基礎を身につける場である。苦手だからといって回避することはできない。だから窮屈に感じるのだが、苦手分野は苦手なりに、補習や追試などで、ギリギリでもどうにか切り抜けられる。
ギリギリでも。
それを、この高宮少年は、すべての教科で完璧を求められている。
「よく、わかんないんだけど……」
そう前置きしてから、少年は真っ直ぐ志馬の目を見た。
「僕、逃げたくなっちゃったんだ」
悲しげな、小さな少年を、志馬は思いきり抱き締めたい衝動に駆られた。
だが、違う。それは俺の役目ではない。彼の両親がすべき事だ。志馬は両の手をぐっと握り締めた。
「明智。グレーのオーラの意味は?」
「え? ああ、いい意味だと高潔、悪い意味だと孤独、悲しみ、絶望──」
「オーラ……?」
ふと、少年の目が微かに光った。
「お姉さん、オーラ見えるの?」
明智も目をまるくする。
「君はオーラを知ってるの?」
みるみると輝きを増す明智の目線の先で、こくん、と少年が頷いた。
「生きてるものすべてが発している色で、いろんな色があって、その色によって──」
「その生命体が持つ気質、感情や体調などを現す」
少年の言葉を継いだ明智が、にんまりと笑んだ。不気味な笑みであるにもかかわらず、その笑みにつられたのか、少年にも笑顔が広がった。
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