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「子どもが銃とか……」
赤信号で停車した時、不意にぽつりと呟いた明智の言葉を、一瞬聞き逃してしまった。志馬は首を傾げ、頭のなかで言葉の意味を整理すると、明智の言わんとすることを理解した。
「ふざけた法律のせいだ」
「誰がそんな法律を定めた?」
「阿呆な政治家だな」
「その阿呆を選んだのは?」
「……俺たち国民だ。だから国がひん曲がる責任は国民にある。これ以上はない、素晴らしい言い訳だよな」
「まったくだ」
二人は同時に深々とため息をついた。
護身の為の銃所持を認可する法律が定められたのは、今から10年前。とどまるところを知らぬ格差社会とそれがもたらした下位層の増加は、当然のように犯罪を助長した。自分のため、子どものため、あるいは老いた親のため、暴力的に現金を入手する。そしてそうしたフラストレーションが、見境のない無差別殺傷事件を招く。
その対応策としてとられたのが、銃所持の許可だ。所轄の警察署に申請し、講習と筆記試験を受け、心身ともに健康であるとの医師の診断書があれば、成人であれば誰でも所持できるようになった。
「まったく、短絡的すぎるんだよ。誰にでも銃を持たせりゃそれが抑止力になるとか、どうしたらそういう阿呆な発想になるかな」
それは志馬も、まったくの同意見だ。ハンドルを握る手に力を込め、鼻息荒く頷いた。
「……と、班長が言っていた」
「……え?」
思わず明智に目を向けた。明智は、まるで自分が運転しているかのように、じっと前を睨んでいる。
「犯罪を未然に防ぎたいっていう久我班長の思いの裏には、銃社会からの脱却っていう大きな願いも込められているんだ」
そうだったのか──オーラがどうとか随分ふざけたこと言ってやがるなこの七三野郎、と思っていたが、考えを改めなければならないようだ。
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