Episode 3

14/29
前へ
/156ページ
次へ
「まあ、班長がこうして実際に自分の班まで立ち上げてしまった、そこまで彼を突き動かすものは何なのかまでは、私も知らないんだけどね」 「椎野は知ってるのかな」  それで久我についてきたというなら、椎野のことも見直すべきだ。 「ああ、もしかしたら知ってるかも。あの二人、実は──」  突如クラクションが鳴り響き、志馬は慌てて周囲に目を走らせた。赤だった信号がとっくに青に変わっていた。  すみません、と後ろの車に呟き、アクセルを踏む。口をすぼめてふーっと息を吐き出し、暴れる心臓をなだめた。 「……で、あの二人は実は、なんだって?」  ちらりと横目で明智を見た志馬は、信じられない事態に眼球が飛び出すかと思った。  さっきまでペラペラ喋っていた古井戸女は、一瞬にして眠りに落ちていた。 ***  じゅうじゅうと餃子の焼ける音がする。茹で上がった麺を素早く、勢いよく湯切りする鋭い音が聞こえる。心地よい音と香ばしい匂いの充満した、ここは楽園──  はっと我に返り、志馬はぷるぷると頭を横に振った。しっかりしろ俺。いくら今日もハードな1日だったとは言え、いやだからこそ、今日こそここ味倶留(みくる)亭の味噌バターラーメンを食べるのだ。  18時少し前。店内は既に混雑してきている。志馬はきのうと同じ2人掛けのテーブルに座り、口のなかで何度も「味噌バターラーメン」と繰り返し唱えていた。これならいつあのラガーマンのような店員が注文をとりにきても大丈夫だ、間違うことはない。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

624人が本棚に入れています
本棚に追加