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隣のテーブルに運ばれてきた餃子の匂いに腹が反応し、ぐううと鳴った。
あの少年も、今ごろ家族で食卓を囲んでいるだろうか──8歳にしては少し小柄だとは思ったが、痩せすぎではない。きちんと食事を与えられているという事だ。
だが彼が、銃を持ち出してマンションの屋上へ行くほど追い詰められていたのは紛れもない事実である。少年と母親それぞれに児童相談所の電話番号を渡したのは間違いではない……
「児童相談所というところは、18歳未満の子どもの育児相談も行っているんです。もちろん電話相談も受け付けてますから」
母親は呆然とした表情で、志馬のメモを見つめていた。悪い方に捉えなければいいのだが。これはうちの教育方針であって、虐待と思われるのは心外だ、などと思われては元も子もない。
まあ、これからもたまに様子を見に行くつもりではあるが。
おそらく明智もそうするだろう。なにせオーラという共通の趣味……いや研究対象があるのだ。その希有な仲間をあの古井戸女が易々と手放す筈がない。
そういえば、と志馬は、隣のテーブルに座る恰幅のいいサラリーマンが、がぶりと餃子を頬張るのをぼんやりと眺めながら思い返した。あのとき明智は何を言おうとしたのだろう。久我班長と椎野は、実は──?
実はあの二人は兄弟とか? いやそれはないだろう。見た目も中身も、何ひとつ似ていない。
では何だ。学生時代の先輩後輩とか? だとしたら椎野の久我に対するあの態度はおかしい。いや、そもそも上司への態度ではない。
となると──
「ご注文は?」
突然の地響きのような声にびくりと竦みあがった。
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