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いきなり志馬から発せられた非現実的な言葉に、ウエハラは思いきり顔を歪めた。
「オーラ……オーラって」
「生きた人間は誰しもオーラを纏っている。そのオーラは、発せられる感情によって色が変わるんだ。ウエハラユウスケ、テメエのオーラは真っ黒だった。真っ黒、すなわちそれはテメエの負の感情を表している」
坊主頭で、鬼のような顔立ちをした立派な体格の男から「オーラ」などという単語が出てくるとは──否、これは、893さんが不動明王を崇めるようなものなんだろうか。
「俺はオーラが見えるんだ」
怪訝そうなウエハラに、そう志馬が付け足した。
「あの……え……ってことは、あの、あなた方は、何か、宗教関係の……?」
「いや」
志馬はスーツの胸ポケットに手を入れた。
「警視庁 港那伽警察署、生活安全対策係の志馬だ。そっちは椎野巡査長」
取り出したのは、映画やドラマでしか見たことのない、金のエンブレムがまばゆい警察手帳だった。
「けっ……警察の人!?」
「オーラの色を見分けて犯罪を未然に防ぐ──起きてしまった事件を追うことだけが警察の仕事じゃない」
「けっ、警察がオーラ!?」
「おまえのオーラは本来の色に戻った……優しい色をしているな」
「オーラって……え、オーラって、ホントにあるの!?」
「その優しい輝きを、二度と黒く染めんじゃねぇぞ」
自分の言葉に酔いしれた様子で目を閉じた志馬が、ふっと笑みを漏らした。ウエハラはただただ呆気にとられ、静かに佇む二人の警察官を交互に見遣った。
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