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いつの間にかラガーマンがテーブルに張り付き、鋭い目で志馬を見おろしていた。驚きのあまり「あわわわ」となる志馬に、再度「ご注文は?」と尋ねる。
「あっ……し、し、塩ラーメン……」
ラガーマンは無表情のまま伝票にボールペンを走らせると、ご注文を繰り返すことなく立ち去っていった。あいつ、あのラガーマン、接客に向いてないだろ、とドキドキしながら大きな背を見送る。
その志馬の視界に、爽やかな風が流れ込んできた。
「2日連続でラーメン?」
小首を傾げて微笑んでいるのは、昨日この店で相席した、何色のオーラも纏っていないイケメンだった。オーラは見えないが、背景にゴージャスな花を背負っているのは見える(気がする)。
「まあ、俺も人のこと言えないけど。ここ誰か来る?」
イケメンが長い指で志馬の前の席を示した。咄嗟に言葉が出ず、志馬はただ首を横に振った。
「じゃあ、ご一緒させてもらっていいかな」
ふふ、と香りたつような微笑み。まるで少女漫画から抜け出してきたかのようだ。王冠やフリフリのブラウスが見える(気がする)。
すかさず現れたラガーマンのような執事にクルスティアン・ドゥ・フロマージュを注文すると、無オーラ王子はワイングラスを手に、上品に白ワインを喉へと流し込んだ。
「あーっ。水、冷たくて美味しい」
「……あ」
「ん?」
「いま……なに注文した?」
「味噌バターラーメン。もうハマっちゃってさー。1日1回は食べないと気が済まないんだ」
しまった、と志馬は険しい表情になった。ラガーマンの迫力に圧され、違うものを注文してしまったような気がする。だとしても、もう後の祭りだ。あのラガーマンを呼びつけて注文を変更する勇気などない。
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