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浪人は認めない、大学に落ちたら働け、というウチとは大違いだ。
少し会話が途切れたところへ、ラーメンが運ばれてきた。無オーラ王子の味噌バターラーメンと、そして志馬の──
(俺、塩ラーメン頼んでたのか!)
驚愕に青ざめ、がたがたと小刻みに体が震えだす。
あんなに何度も「味噌バターラーメン」と唱えたのに! 一体なぜ! このような事態になった! 古井戸女の呪いか!
「あれ? 今日は塩?」
小気味いい音をたてて割り箸を割る無オーラ王子がきょとんとして顔を上げた。
「あ……う、うん」
「今度こそ味噌バターラーメン食べるって言ってなかったっけ」
「お……お楽しみは、後にとっておこうかな……と、思って……ははは、は……」
虚しい笑い声が餃子の焼ける音に混じって儚く消えた。
***
それから数日間は比較的穏やかに過ぎていった。といっても、世の中は絶えず事件が起きているのかと思うほど、電話はひっきりなしに鳴り、相談窓口に並ぶ人が途絶えることはない。
忙しい合間に、志馬が定期的に訪れる場所があった。隠れた名店である味倶留亭──行くと必ず無オーラ王子もいて、一緒にラーメンを啜ることになる。そして未だ志馬はラガーマンに圧されっぱなしで味噌バターラーメンを注文できていない。
そしてもう一ヵ所は、高宮少年の通う小学校の通学路だ。登下校のどちらかの時間に合わせて、少年が学校へ行っていることを確認する。たまに少年が志馬に気付き、はにかみながら小さく手を振ってくれることもあった。彼のオーラは明るい黄色だ。志馬は安心して手を振り返す。
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