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16時を過ぎて署に戻り、久我班の薄暗い部屋に入った時、いつもと違う空気を感じ取って足を止めた。
入って右側に置いてある古ぼけた応接セットに、見知らぬ女性が久我と向かい合って座っていた。志馬の気配に僅かに振り向いた横顔は青白く、憔悴しきっているように見える。誰だろうと訝りつつぺこりと頭を下げると、女性もまた軽く頭を下げて志馬に応えた。
いそいそと自分の机につき、隣の明智にそっと体を寄せる。
「あの女性は……?」
「山崎翔子さん、24歳。ネットストーキングにあってて、それがエスカレートしてるって」
「ネットストーキング?」
「ブログやってるらしいんだ。本人いわく、どうってことない日常を綴ってるだけなんだそうだが、そこに3ヵ月ほど前から同一人物による頻繁な書き込みが始まって」
山崎翔子がちらりと振り返ったので、明智は言葉を切った。清楚な雰囲気の、美しい女性である。
「熱心に読んでくださる、優しい人だと思ってたんです」
澄んだ、涼やかな声をしていた。
「ちょっとナーバスになった時の記事には、元気付けられるようなコメントをしてくれたし。いつでも相談に乗るからって」
「おかしいな、と思ったきっかけは?」
久我の質問に山崎は体の向きを直し、僅かに俯いた。
「ブログを更新しようとサイトを開いたら、5分前にコメントが届いてて……“おはよう、今日は休みかな? いつもよりゆっくりな朝だね”って」
監視してるのか──志馬は息を呑んだ。
「その日は、ブログの更新が遅れたとか?」
久我の問いに、山崎は首を横に振る。
「更新時間は決まってません。1日2回更新する時もあれば、更新しない日もあります」
敢えて口を挟まず、久我は話の続きを促した。
「その時は、偶然かなって思ったんです。でも、そのコメントをきっかけに、まるで四六時中私を見張ってるような書き込みが」
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