624人が本棚に入れています
本棚に追加
志馬は眉を寄せた。これは既にストーカー規制法に触れている。警察が動ける。
無意識に拳を握り締める志馬に、明智がそっと体を寄せてきた。
「念のため聞くが……彼女の作話という可能性はないか?」
即座に志馬は首を振った。
「オーラの色的には彼女の本来のものだろうが、なんていうか、すごく弱々しい。精神的にかなり参ってる証拠だ」
作話かどうかは、そもそも彼女のブログを見れば明らかとなる。明智の疑問は、念には念を、といったところか。
「そういや椎野は?」
「もうすぐ戻って来るんじゃない? なに、椎野が気になるの? あなたもあのオーラにやられた?」
「はあ? おまえなに言ってんだ」
「いいよいいよ隠さなくて。オーラって不思議だよねえ。オーラにも1/fの揺らぎみたいなのがあるのかなあ。あー、研究させてくれないかなあ!」
「そこ、うるさいぞ」
久我に怒られ、明智は不満そうに口を尖らせながらPCに向き直った。モニターには山崎の言葉がそのまま書き込まれている。オーラオーラとばかり言っているが、やはり明智は逸材なんだろう。
「一度、書き込みをやめるよう伝えたことがあるんです」
山崎の声はひどく小さく、そのため志馬と明智は息さえも潜めて耳を傾けた。
「そしたら、ものすごく怒って……“おまえの住所は判っている、逃げようとしても無駄だ”って。さすがに怖くなって、ブログを辞めたんです。他のSNSのアカウントも消しました……」
ふと山崎の歯切れが悪くなったように感じて、久我は首を傾げた。
「すべて──消したんですか?」
暫しの沈黙があってから、山崎は沈痛な面持ちで目を伏せると、口のなかで「いいえ」と言った。
「ひとつだけ……どうしても消せないアカウントがあって」
「なぜ、消せないんです?」
「そこでずっとコメントのやり取りをしている人がいるんですけど、ストーカーのことも相談に乗ってくれてて」
「ブログで嫌な目に遭ったのに、その人のことは信頼されてるんですか」
久我の言葉に、山崎が勢いよく顔を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!