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「SNS利用者が、みんながみんな悪い人って訳じゃありません。むしろいい人のほうがたくさんいる……私は何度、そういう人に助けられたことか」
顔も知らない、会ったこともない相手に、悩みを相談する、あるいは親身になって相談に乗る。知らないからこそ言えることもあるだろう。事実、SNS利用者数は増加の一途を辿っている。だがそのぶん、ネットでのトラブルが増えた事も確かだ。
「ああ、お気を悪くなさらないで。私はSNSというものをやらないので、そうした世界がどういうものなか、よく解らないんです」
慌てた様子の久我に、山崎が小さくため息をついた。
「警察に相談するよう背中を押してくれたのも、その人です。いろいろ調べてくれて」
「そうでしたか」
「その人のアドバイスのとおり、アドレスも、電話番号も変えました」
「その人とは、SNS以外でも接点はあるんですか?」
「いいえ──やり取りはすべてサイト内だけで、個人的な連絡先はお互い知りません」
ふと久我は背筋を伸ばし、志馬のほうへと首を伸ばした。
「ネット上での付き合いって、そういうもんなの?」
いきなり話を振られ、志馬は慌てて記憶を探った。
「いやあ、えっと……なかには出会い目的でコンタクトをとってくるヤツもいますよ。なんだかんだ理由つけて、個人の連絡先を聞き出そうとするみたいです」
「目的が出会いでなければ、連絡先を聞き出す必要はない、という事か?」
「オフ会なんかもあるみたいですけど、そういうのって同じ趣味の人の集まりだとか……」
「ネット以外の付き合いに発展するのか?」
「ええ、たぶん」
「たぶん?」
「すみません、俺そういうのやらないから、わかんないです」
「今のはネットの情報か?」
「はい」
小馬鹿にしたように、久我が小さく鼻で笑った。自分も同じような知識しかないくせに、小馬鹿にされる意味が解らない。
その時、場違いな音楽がしんとした室内に鳴り響いた。
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