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山崎がはっとしたように目を見開く。
「私の携帯です……」
「誰からか、確認して」
傍らに置いたバッグをごそごそと漁って携帯を取り出すと、ボリュームの増した音楽が久我の耳を直撃した。
「知らない番号……」
「スピーカー機能にして。出て」
命令され、山崎は青ざめた表情のまま、震える指先で画面を操作した。
着信音が途切れ、不気味な静寂に包まれる。
「……はい」
『警察に行ったんだね』
間髪を入れず、男の声が返ってきた。ボイスチェンジャーでも使っているのだろう、いくつもの声が重なったような、不自然な声だ。
山崎は泣きそうな顔で、すがるように久我を見たが、無情にも久我はただ頷いただけだった。通話を終了していいとの合図でない事は、その眼差しから明らかだ。
「本当に……やめてくれませんか」
山崎の声が恐怖と嫌悪に震える。これは、余計に相手を煽ってしまうんではないかと志馬は顔を顰めた。
『冷たいなあ。あんなに仲良くコメントしあってたのに』
「そ、それはサイト上だから──」
『ずいぶん思わせ振りだったよねえ、翔子ちゃん、ブログに来る野郎ども全員に可愛いって思われたかったの?』
「違います!」
『顔なんかもチラ見せしちゃってさあ。釣られる男は馬鹿だよね』
くつくつと、喉の奥で笑う。
『その馬鹿の筆頭が、俺』
男の笑う声が大きくなる。優越感にでも浸っているのだろうか。志馬には、その心理が理解できない。
「私……携帯の番号だって変えたのに……どうやって調べるの……」
『んー、翔子ちゃんへの愛の力かなー』
志馬の隣でPCを打ちながら明智が「うへえ」とあり得ないほど顔を歪めた。
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