Episode 3

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 苛立ったように、椎野の指がエレベーターのボタンをかちゃかちゃと連打する。 「なあ、どうした──」 「ヤツは俺たちを“クガハン”と呼んだ。生安(せいあん)でも第5係でもなく」  “久我班”は、署内での通称だ。部外者が知るものではない。志馬はまさか、と言おうとしたが、驚愕が喉を詰まらせて声にならなかった。 「ひとつ、確証を得たな」  ため息混じりに椎野が呟いたのと同時にエレベーターが7階で止まり、なめらかにドアが開いた。 「ヤツの持つ情報量は半端ない。舐めてかかると、痛い目にあうのはこっちだ」 ***  一連の出来事を報告すると、久我は腕を組み、難しい顔をして「うーん」と唸った。 「要するに……」  険しい表情のまま椎野に目を向ける。時刻は既に19時ちかく、署内には当直者しか残っていない。 「山崎さんのマンションは間違いなく監視されてるってことだね」 「ああ、そしてこの(みなと)那伽(なか)署もな」 「久我班は有名なんだな」 「そうじゃねぇだろ。なに照れてやがる」 「盗聴器なんかもありそうだね」 「そいつは部屋を見てみなきゃな。それより早いとこヤツの正体を突き止めねぇと」 「群馬の実家も、警備を強化しといたほうがいいな」  椎野の机に置かれた山崎翔子の携帯が、再び着信を知らせた。さきほどと同じ番号からだ。  どうする?──と久我を見ると、久我はゆっくり頷いてみせた。ああ、なんで携帯を志馬に押し付けなかったんだと、後悔ばかりが押し寄せる。
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