622人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
苛立ったように、椎野の指がエレベーターのボタンをかちゃかちゃと連打する。
「なあ、どうした──」
「ヤツは俺たちを“クガハン”と呼んだ。生安でも第5係でもなく」
“久我班”は、署内での通称だ。部外者が知るものではない。志馬はまさか、と言おうとしたが、驚愕が喉を詰まらせて声にならなかった。
「ひとつ、確証を得たな」
ため息混じりに椎野が呟いたのと同時にエレベーターが7階で止まり、なめらかにドアが開いた。
「ヤツの持つ情報量は半端ない。舐めてかかると、痛い目にあうのはこっちだ」
***
一連の出来事を報告すると、久我は腕を組み、難しい顔をして「うーん」と唸った。
「要するに……」
険しい表情のまま椎野に目を向ける。時刻は既に19時ちかく、署内には当直者しか残っていない。
「山崎さんのマンションは間違いなく監視されてるってことだね」
「ああ、そしてこの港那伽署もな」
「久我班は有名なんだな」
「そうじゃねぇだろ。なに照れてやがる」
「盗聴器なんかもありそうだね」
「そいつは部屋を見てみなきゃな。それより早いとこヤツの正体を突き止めねぇと」
「群馬の実家も、警備を強化しといたほうがいいな」
椎野の机に置かれた山崎翔子の携帯が、再び着信を知らせた。さきほどと同じ番号からだ。
どうする?──と久我を見ると、久我はゆっくり頷いてみせた。ああ、なんで携帯を志馬に押し付けなかったんだと、後悔ばかりが押し寄せる。
最初のコメントを投稿しよう!