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(ばっかやろう!)
志馬は歯噛みした。こちらの情報を晒してどうするつもりだ!
重苦しい沈黙が流れた。二度も、山崎翔子とは違う声を山崎翔子の携帯で聞いた男は、果たして今どのような感情にとらわれているのか。
久我と志馬は互いにおろおろと目を合わせ、椎野はじっと携帯を睨み付けて反応を待っている。嫌な汗が志馬の頬を伝う。
『ふふ、ふ……』
携帯の向こうで男が不敵に笑う姿が見えるようだった。椎野の眉間の皺が濃くなる。
『知ってるよお、そんなこと』
「クソが!」
押し殺した声で椎野が吐き出した。
『ねえ。会いたいんだけど』
「ここにはいないと言ってるだろうが」
『わかってるってば』
相手の意図が読めない苛立ちに、椎野は両の拳をぎゅっと握り締めた。なんだ、この流れは。完全にヤツのペースじゃないか。
『俺は、君に会いたいの』
「………は?」
君って誰だ?
『今からだと……そうだなあ、8時すぎくらいになるかな。海浜公園で待ってるから。海沿いのフェンスの前にベンチが並んでるでしょ? その一番左のベンチから5メートル左に離れたところに立ってるね。目印に傘を持ってるよ』
いやいや、ちょっと待て。コイツは誰と待ち合わせの約束をしているんだ?
『ちゃんと来てよね。じゃないと、ひどく後悔することになるよ──じゃ、またあとでね、椎野サン』
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