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志馬は反射的に腰を落とし、左の脇の下に収めた銃へと手を伸ばした。
呼吸が浅くなり、心臓は不快なほど強く拍動する。
落ち着け──警察官は全部で6人、椎野を入れれば7人いる。椎野にしても、恐ろしいほどの馬鹿力と人間離れした瞬発力は、社会人ニート坂下圭吾の一件のときに明らかとなっている。
だから、大丈夫だ、まわりは屈強なヤツらで固めてある。そもそも椎野自身が屈強だ。万一、相手が仲間を引き連れてきたとしても──
………仲間?
志馬ははっとなって僅かに目を見開いた。
「おい」
マイクを口に近付け、低く囁く。
「傘を持った男ってのは、一人か?」
『一人です』
「その男の周囲に不審なヤツはいないか?」
僅かに返答が遅れた。
『……カップルが数組と、大学生くらいの4、5人のグループがいますが』
『志馬君。ちょっと落ち着いて』
久我の声だ。志馬は口を噤んだ。
『向こうだって、こっちが張り込んでることくらい予想してるよ。堂々と仲間を連れて来るとは思えないなあ』
「だったらもっと周囲を警戒すべき──」
『視界に椎野さんを捉えました』
傘を、まるでライフルのように肩に担いだ厳つい男が、ゆっくりと椎野に近付いていくのが見えた。志馬は舌打ちした。
その巨躯のためか、あるいは大型肉食獣のような歩き方のせいか、男は異様な雰囲気を醸していた。オーラの色は、赤、そしてオレンジ──ただしどちらも、まるで炎のように猛々しい。志馬はそっと鼻から息を吸い込んだ。
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