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警察官に、否、たとえ警察官でなくとも、5人の男に囲まれ、凄まれているというのに、ほんの僅かな動揺さえ見せない。よほど腕に自信があるのか、あるいはこうした場面に慣れているのか。
「そこ、どいてくんない?」
正面に立つ志馬に平然と言ってのける。志馬は答えず、更に睨み付けた。男が担いだ傘が凶器に見えてきた。
「ねえ。用があるのはあんたじゃないんだけど」
「ストーカーの正体はおまえか」
志馬の言葉に男は一瞬きょとんとした。それから今度は声をあげて笑いだした。
「何がおかしい!」
男の右の背後についた警察官、田村が声を荒らげた。男は笑いながら周囲に目を向け、そこでようやく自分の置かれた立場を認識したようだった。少しずつ、笑いが引いていく。
「え、なに、なんなの?」
「誤魔化すな。おまえだろ、ストーカー行為を繰り返してたのは」
怒りを押し殺したような声で真正面から睨み付けてくる志馬に視線を合わせると、男はにやりと笑った。
「もしかして警察の人? 俺を逮捕しに来たの?」
この期に及んで、なぜこんなにも余裕な態度なんだ。まるで、自分は捕まらないという絶対的な確信があるみたいだ。
「ねえ。証拠はあるの? てか逮捕状とかあんの?」
「詳しく話を聞きたいので、署までご同行願えますか」
「え、逮捕されんの? 何罪?」
馬鹿にしてやがる──志馬はぎりりと奥歯を噛み締めた。のらりくらりと、これではいつまでたっても埒が明かない。
「話は署で──」
「えーっ、やだよ、俺あんたらに用ねぇし」
「こっちにはあんだよ」
男の丸太のような腕を掴もうと志馬が手を伸ばした時、男が足を大きく開いた。逃げる、もしくは臨戦態勢だ。咄嗟に志馬も腰を落とす。
男は志馬をじっと見据えたまま、にやりと笑った。
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