624人が本棚に入れています
本棚に追加
遠巻きに人だかりができ始めている。ざっと見渡した限り、そこにこの男の仲間らしき姿はない。
「ねぇ、お巡りさん。簡単な話じゃん、俺はあんたらじゃなくて、そっちの男の子に用がある。あんたらがそこどいてくれれば、それで万事解決。な?」
な?じゃねぇよ。
苛立ちから鼻柱に皺が寄る。
「言っとくが、おまえがあの男の子を呼び出すのに掛けた携帯、あれはあいつのものじゃない。本当は呼び出す相手が違ったんじゃないか?」
「え? 合ってるよ?」
「あの携帯の番号はどうやって入手した?」
「それなんであんたに教えなきゃなんねぇの?」
話が一向に進まない。野次馬は増え続けている。志馬は小さく舌打ちした。
「とにかく署へ──」
「……やだっつってんだろ!」
突如、男が豹変した。
両目を吊り上げて怒声を放ち、担いでいた傘を勢いよく振り下ろす──志馬は寸でのところでそれをかわしたが、傘の先端が左の手の甲を掠めた。一瞬遅れて痛みがじわりと広がる。
志馬が体勢を立て直すより早く再び男が傘を振りかぶった。隙だらけとなった胴体と下半身に4人の警察官が背後から同時に体当たりしたのを見て、すかさず志馬が傘を持つ右腕に飛びついた。両手でぎりぎりと締め付けるが、男の腕はまるでびくともしない。
「横暴だあ!」
警察官を振りほどこうと身を捩りながら、男は大声で叫んだ。
「国家権力による暴力だ、あはははは!」
ばか野郎、テメエのこの態度は公務執行妨害に当たるんだよ、と必死に男の動きを封じながら志馬は思った。これ以上暴れるようなら現行犯逮捕だ。
だが、男はふと、動きを止めた。
最初のコメントを投稿しよう!