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生活安全課生活安全対策係は、これまで第4係までしかなかった。今年度から新たに新設された第5係──まあ、頑張れ。交番での上司である巡査部長は、目を合わせずそう言った。なぜ目を合わせない。まあ、頑張れ。「まあ」とは何だ。
正面に座っていた男が椅子を鳴らしながらゆらりと立ち上がったので、志馬はふと我に返った。
年齢は30半ばといったところか。上背があり、非常に落ち着いた感じの、彫りの深い整った顔立ちの男である。
「志馬景臣巡査だね?」
バリトンボイスが薄暗い部屋の空気を心地よく揺らし、志馬は慌てて姿勢を正した。
「ほっ……本日付で──」
「あー、うん、いいよ、わかってるから」
「えっ」
いやいや、最初の挨拶くらいちゃんとやらせてくれよ──と思ったが、初対面の上司に向かってそんなことは言えない。
「私は久我亮衛警部補。この第5係の責任者だ。それでこっちが──」
久我警部補の視線をたどると、寝癖のついたミディアムショートの女性に行き当たった。
「明智梨果巡査」
唐突な紹介に、明智はきょとんとしたままぺこりと頭を下げた。つられて志馬もぺこりとお辞儀する。
「あと一人、椎野巡査長がいるんだが、あいにく彼は出ててね」
「はあ……」
「君の経歴はいろいろ調べさせてもらったよ」
「はっ……」
「小学生の時、空手大会で優勝したそうじゃないか」
(いろいろ調べたって、そこから!?)
まさか小学生の頃まで遡られるとは思わなかった。別にやましい学生時代を過ごした訳ではないが、嫌な汗が出てきた。
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