Episode 4

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Episode 4

 港那伽署から徒歩15分、駅前を東に向かい、繁華街を抜けると、東京湾が視界いっぱいに広がる。  そこに海浜公園があった。公園といってもプロムナード的な要素が強く、幅が70メートルほどなのに対し、総延長はおよそ2キロある。夜はゆっくり夜景を楽しめるとあって、人気のデートスポットだ。 『志馬君。そっちの様子どう?』  繋ぎっぱなしの警電から久我ののんびりした声がヘッドセットを通して聞こえてきた。 「今のところ異常ありません」  華奢なヘッドセットはキャップで隠し、公園を散歩しているふうを装って、しかし周囲に鋭い視線を投げ掛けながら志馬が答えた。 『他の皆さんも大丈夫だね?』  警電は最大で12人と同時通話できる。他の警察官の「異常ありません」という声が4つ返ってきた。  皆それぞれ椎野を視界に収めた位置で警戒に当たっている。椎野は、指定されたベンチの近くに立ち、じっと海のほうを眺めていた。相手の目印は傘。雨が降る確率は低く、傘を持っていればひどく目立つ。  警戒しつつも、どうせ現れないだろうという思いがぬぐいきれない。警察官相手に待ち合わせ場所を指定し「会いたい」などと、わざわざ捕まえられに来るようなものじゃないか。何を考えているんだ──  ふと、何かが志馬の胸に引っ掛かった。  女性へのストーキング、警察官に「会いたい」──逮捕されることを望んでいる……?  それとも……ああ、最悪だ、俺たちを試しているのだとしたら。 『傘を持った男、北から接近してます!』  不意に沈黙が破られた。
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