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1、渉とおじさん
渉は大学を卒業し、そのまま都内で就職したあとも、引き続きおじさんの家に下宿していた。
おじさんは郊外の一軒家に昔から住んでいる。周りは住宅地ながら緑が多くのんびりしていたが、私鉄一本で都心に出られる立地は便利であった。渉は大学も就職先も都心にあったので、本当に助かっていた。
おじさんは渉が来るまで一人暮らしであった。
だいぶ前に奥さんを病気でなくしていて、再婚はしていない。渉もおばさんのことはおぼろげにしか記憶がない。
おじさんはだいたい家にいて、面倒見も良く渉に優しかった。
親族のなかで唯一東京に離れて暮らしているおじさんには、渉がちょうどよい話し相手になっていたのだろう。
おじさんは勤めに出ていない。とはいえ、四十代半ばで、まだまだ現役世代である。おじさんが家にいるのには理由があった。おじさんは作家なのである。
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