2、だし巻き卵

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2、だし巻き卵

 おじさんは昔はある商社に勤めていたが、32歳で応募した小説が新人賞をとり、しばらくは作家と会社員の二足の草鞋を履いていた。    しかし、すぐにベストセラー作家となり、35歳で脱サラしたという経歴の持ち主。  ペンネームは「白野 楽(しらの らく)」という。  渉はおじさんを尊敬している。それは、自分が就活で苦しんでいたとき、おじさんのつてでおじさんの古巣の商社に就職できたから、というわけではない。  渉から見ると、おじさんは、母親の弟にあたる。  母親とおじさんはもともと仲の良い姉弟だったため、渉は子どものころからよくおじさんに遊んでもらい、かわいがってもらっていた。    「渉くん、そろそろ起きたまえ。ご飯の用意ができましたよ」  階下でおじさんの声がする。  実は渉はもうとっくに起きてはいたのだが、髪のセットに苦心して、もたついていたのだった。  渉はちょっとそこらにいないような超イケメン。その自覚はあるので、おしゃれには余念がない。学生時代からもてもてで、会社員になった今も、女性上司からよく声がかかるのである。  「おじさん、今行くよ」  渉は、熱心に鏡を眺めながら返事をした。  ダイニングに行くと、テーブルのランチョンマットの上には、味噌汁とご飯、塩鮭とだし巻き卵が用意されていた。おじさんは料理も得意である。  「いただきます」  「ところで、渉くん、明日の夜は大丈夫かな」  明日の夜は、おじさんの新作『愛するあなた』の出版記念パーティーがある。渉もおじさんのお供で参加することになっていた。  「うん、明日は予定はないよ」  渉は答えた。本当は上司の上田美里さんと食事をする予定だったが、すでにキャンセル済み。  「楽しみにしているよ」  そういっておじさんは自室に引きとった。おじさんは朝食は食べない主義である。
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