第死食・―最後の晩餐―

4/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 一口、二口と咀嚼していく。  美味い。これ以上に美味いモノを、今まで食べた事がない。  豊潤な香り。苦み走った味、豊かな甘味、鋭く舌先を刺すような辛味、口中を駆け巡っていく酸味。  ありとあらゆる味が身体中を支配して、脳内エンドルフィンが増し、恍惚へと誘ってくれる。  紛うことなく、違う事なく、男は最高にして至高の食材を提供してくれたのだ。  ぽつぽつと、サテンのテーブルクロスに落ちるものがある。  それが頬を伝い落ちる泪だと気付くのに、かなりの時間を要した。  ――待ち望んでいた筈なのに、ずっと、この時を、ずっと。  そして気が付けば、あくまはテーブルに突っ伏し、恥も外聞もなく鳴いていた。  嗚咽を漏らしながら、テーブルに何度も、何度でも、血が滲むまで拳を叩き付ける。  もう、料理は皿に残っていない。  かくしてあくまは、再生する能力と主人を喪う代わりに、不老不死の力を得たのだ。  この大きな屋敷に、独り――。  そうしてあくまは男の遺志を継ぎ、ずっと変わらぬ姿で、現代に至るまで、国を統治し続けたのだという。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!