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一口、二口と咀嚼していく。
美味い。これ以上に美味いモノを、今まで食べた事がない。
豊潤な香り。苦み走った味、豊かな甘味、鋭く舌先を刺すような辛味、口中を駆け巡っていく酸味。
ありとあらゆる味が身体中を支配して、脳内エンドルフィンが増し、恍惚へと誘ってくれる。
紛うことなく、違う事なく、男は最高にして至高の食材を提供してくれたのだ。
ぽつぽつと、サテンのテーブルクロスに落ちるものがある。
それが頬を伝い落ちる泪だと気付くのに、かなりの時間を要した。
――待ち望んでいた筈なのに、ずっと、この時を、ずっと。
そして気が付けば、あくまはテーブルに突っ伏し、恥も外聞もなく鳴いていた。
嗚咽を漏らしながら、テーブルに何度も、何度でも、血が滲むまで拳を叩き付ける。
もう、料理は皿に残っていない。
かくしてあくまは、再生する能力と主人を喪う代わりに、不老不死の力を得たのだ。
この大きな屋敷に、独り――。
そうしてあくまは男の遺志を継ぎ、ずっと変わらぬ姿で、現代に至るまで、国を統治し続けたのだという。
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