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おもむろに片腕を、用意したまな板へと置く。一度深呼吸して、いざ、肉斬り包丁の刃先を一気に振りかざした。
――だんっ!
激しい痛みと同時に上がる血飛沫、そして勢い良く転がる腕。
歯を食い縛り、悲鳴を堪え、なるべく新鮮な内にと骨ごと腕だったモノを斬り刻む。
煮込みが良いか。時間一杯までぐつぐつと柔らかく似て、シチューにしてやろう。
激しい息遣いをしながら手早く仕上げていく。
もうすぐ“これ”が、敬愛して止まない主人の口に入る。
そう思うと恍惚の内に身震いがするのは、腕の損失による痛みのせいだけではないだろう。
思わず笑いが漏れる。
前菜には薄切りにした生ハム仕立てのサラダを作った。
これで主人は満足してくれるだろう。
ワゴンに並べ、主人が待つ食卓に運んで行く。
厨房は、世界は、赤に染まったままで、主人が物欲しそうに見詰め、そしてサラダから口にする。
巧みにナイフとフォークを使い、肉汁と鮮血を口の端から垂らしながら、スープを啜り。
――美味い。
そうだ。
この一言のために、腕を差し出したのだ。
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