第一食・―前菜・スープ―

2/2
前へ
/10ページ
次へ
 おもむろに片腕を、用意したまな板へと置く。一度深呼吸して、いざ、肉斬り包丁の刃先を一気に振りかざした。  ――だんっ!  激しい痛みと同時に上がる血飛沫、そして勢い良く転がる腕。  歯を食い縛り、悲鳴を堪え、なるべく新鮮な内にと骨ごと腕だったモノを斬り刻む。  煮込みが良いか。時間一杯までぐつぐつと柔らかく似て、シチューにしてやろう。  激しい息遣いをしながら手早く仕上げていく。  もうすぐ“これ”が、敬愛して止まない主人の口に入る。  そう思うと恍惚の内に身震いがするのは、腕の損失による痛みのせいだけではないだろう。  思わず笑いが漏れる。  前菜には薄切りにした生ハム仕立てのサラダを作った。  これで主人は満足してくれるだろう。  ワゴンに並べ、主人が待つ食卓に運んで行く。  厨房は、世界は、赤に染まったままで、主人が物欲しそうに見詰め、そしてサラダから口にする。  巧みにナイフとフォークを使い、肉汁と鮮血を口の端から垂らしながら、スープを啜り。  ――美味い。  そうだ。  この一言のために、腕を差し出したのだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加