7人が本棚に入れています
本棚に追加
次に目が覚めた時、主人が厨房に立っていた。
赤く染まったこの場所では不釣り合いな程に洗練された姿で、目が覚めたのを確認したのかにやりと笑った。
――美味かった。ご馳走だった。ありがとう。
それだけ告げると、つかつかと歩み寄り、両の瞳を愛で始める。
――嗚呼だけど、デザートも食べたい気分だ。
それだけ。
たったそれだけで、次にナニを所望されているのかを理解する。
ぞくりと、全身で身震いする。
見えなければ、どう料理する?
否。
主人が欲しがっている。
空腹を抱え、食べたがっている。
どんなに無理難題でも、それに応えて昇華させるのは、料理人としての腕の見せ所だ。
そのためならば、ナニを差し出しても惜しくはないのだから、仕方ない。
日付けを見る。
覚醒までかなりの時間を要したようだ。
急がねばならない。
瞳を取り出すならば、見えなくなる以上感覚だけでの調理となる。
パルフェの飾り付けにしよう。下ごしらえをしておいて、仕上げれば良い。
最初のコメントを投稿しよう!