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第三食・―デザート・ドリンク―
見えない、というのはとても不便なものだ。
例によって痛みを堪えながらずるりと眼窩から引き抜くと、赤い瞳の裏側に、視神経や諸々の器官が尾を引いて、滑りとした感触を残し伝う鮮血が、何故だか生々しく妖艶に映る。
残った片方で大体の位置も決めてから、目玉を飾り付けると両目を失くす。
――完全なる無のせかい。
不思議と怖くはない。勝手は知っている厨房の中で、用意して置いたワイン代わりの特製ドリンクと共にワゴンに乗せて、覚束ない足取りで移動すると、食卓へと並べていく。
主人がどのような顔をしているのか分からなくて、だがきっと、これから食せるデザートの味を想像し、笑っているのだろうと予想する。
目が見えないと、代わりに耳という器官が敏感になるらしい。
主人は先ず、ごくりと喉を鳴らして、ドリンクを飲み干したようだ。
――少し、苦いな。
嗚呼それは、これから来るべき、甘美なる体験のため。
苦味は甘味を、より増幅させてくれる。
そのためだけに味の調整には、命を懸けても良い程繊細に施しているのだ。
――垂れているよ。
じゅるりと舌舐りする音が聴こえる。
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