第死食・―最後の晩餐―

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 男が厨房の、処置台に横たわっている。  赤に塗れて、先刻まで温かだった身体はもう冷たく、何かを紡ぐ事も、口にする行為すら出来ない。  ただの脱け殻。ここにあるのは、最高級の食材だ。  “命”は既に取り除いた。他の気管も食材として使えるように、丁寧に慎重に取り出して、今はソテーの準備に取りかかっている。  先ずは口にした際に邪魔となる筋を、ところどころ包丁で斬り、なるべく形を残すよう、肉叩きで柔らかく伸ばしていく。  次に小麦粉をつけ、最高級の油を熱したフライパンの上で、綺麗に両面焼いていくのだ。  塩、胡椒で味を整え、更に一から手作りしたバターで、軽く風味をつける。  蓋をして、味が染み込むのを待つ間に、解体しておいた男をくまなく使った様々な料理を、手際良くワゴンに並べていく。  何往復か食堂へと運び、ようやくメインディッシュをテーブルに並べた時には、深夜に近い時間帯となっていた。  最後の晩餐には相応しい時間だ。  椅子に深く座り込み、用意しておいたナイフとフォークに手を伸ばす。  待ち望んでいた、この瞬間。  食堂中に、美味しそうな匂いが漂っているのだ。
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