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第一食・―前菜・スープ―
屋敷に住まう主人は美食家だ。
食事には気を使うし、深夜晩酌する際のつまみでさえ、手を抜く事は許されない。
全く以て面倒なのだが、これで結構楽しみながら料理をしている。
ただ、主人は少し特殊な趣味の持ち主である。
美食家でありながら、悪食にして、拘りも甚だ強いのだ。
だから、毎日主人から何をリクエストされるのか、心躍りながらも、戦々恐々としているのもまた、事実なのだ。
――嗚呼。今夜は……が食べたいなぁ。
今日も主人が、大きな屋敷の長い廊下ですれ違う時に、こちら――腕を見ながら舌舐りする。
……正気か? 料理人から取り上げて、一番困るモノをリクエストするとは、全く以て酷いな。
背筋が粟立つ。
主人のためなら腕の一本や二本、惜しくはない。どうせ直ぐに再生する。
ただ、痛みや苦しみは感じるから、一時的には辛いだろうが。
直ぐ様厨房へと足を向けると、大振りの肉斬り包丁を手にする。
ぎらぎらと光るソレは、普段から手入れしてあるため、骨までも良く斬れるだろう。
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