助手席は君のもの

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 そのまま右手を伸ばし、人差し指で彼女の顎を更に上に持ち上げた。俺だけを見るように――その瞳に俺だけが映るように。 「井上」 「か! 海と……」  白い頬が一気に真っ赤に茹で上がり、茶色の瞳が微かに震えた。俺は眼を眇め、少しだけ前屈みに顔を近付ける。あの甘い香りが鼻を擽った。 「やっぱり止めたとか言っても簡単には離してやらねぇけど。それでも良いのか?」 「は……」  こくりと喉を鳴らす彼女に、俺はニヤリと口角を持ち上げる。 「俺はしつこいみたいだし」  指を離して上半身を起こした。井上はパチパチを瞬きをした後、ぐっと眉尻を下げる。今にも泣き出しそうな困り顔で、ふふふと笑った。
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