助手席は君のもの

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「先輩。K社に一緒に行ってくれませんか?」  事務所に着くなり、後輩の釜井が俺の席までやって来た。 「何かやらかしたのか?」  床に鞄を置くと、釜井は俺のすぐ横に立ち腰に手をやった。サーフィンをするという釜井は年中灼けた肌をしている。 「やらかしたつもりはないんですけど、K社の常務、海藤さんじゃなきゃ駄目だって譲らなくて」  隣に座る小川が「あの常務、海藤さんラブですもんね」と続けた。 「ラブとか言うな、気持ち悪りぃ。おっさんにモテても嬉しくねぇよ」 「まさかの助手席候補!」  斜め前に座る井上も目をキラキラさせて茶化してくる。 「お前らなぁ……」  はぁと嘆息すれば、釜井が「頼みます、海藤さん」と畳みかけるように両手を合わせた。 「今回の現場、結構デカいんですよ。あんまり値引きには頼りたくなくて」  釜井も常務に言われるがまま俺に泣きついてきている訳ではないらしい。面倒が起こる度に泣きつかれたらたまったもんじゃないが、自分の考えあってのことであれば力になってやらんこともない。  俺は胸の前で両腕を組んだ。 「わかったよ。その代わり……」  ニヤリと口角を上げると、釜井も人差し指を突き立てる。 「一箱ですよね」 「おう。それで手を打とう」 「ありがとうございます! じゃあ、明日の昼一にK社に行きたいんですけど、海藤さんの予定はどうですか?」 「いいぜ。運転はお前な」  勿論ですと一言、釜井は自席に戻っていく。タバコ一箱で請け負った仕事。安いな、我ながら。
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