助手席は君のもの

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 K社に到着して、応接室に通されると頭髪の少ない常務が顔を出した。 「海藤君、久し振りだな」 「お久し振りです。常務が若者を苛めてると聞きまして」  所々スポンジの飛び出した安物のソファに釜井と並んで腰掛ける。常務は笑って両手を組んだ。 「苛めてるだなんて人聞きが悪い。なあ、釜井君」 「ええ。常務には可愛がってもらってます」  常務はアッハッハと豪快に笑った。 「釜井君もしっかりやってくれてはいるんだけどね。やっぱり細かい話は海藤君が早いからさ」 「釜井の方が若くてスピード感はありますよ」 「いやいや、自分からしたら海藤君も十分若いから」  四十のおっさん捕まえて若いとか言われても困る。苦笑して釜井を見れば、薄ら笑いを浮かべながら肩を竦めていた。 「それで海藤君。今回の現場なんだが……」  常務が真剣な表情に戻って本題に入った。俺も唇を引き締めて前のめりに体制を整える。面倒な話じゃなきゃいいんだが。
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