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一話
六月上旬、梅雨入りしてもいないのに気温は暑く、何もしていなくても汗が滲み肌に制服のワイシャツが張り付いて気持ちが悪い、不快な気持ちになる。
このまま梅雨入りしてしまえばきっと、湿気と暑さで気が狂ってしまうだろう。自分を含め暑がりな家族が多いと六月も始まったばかりだというのに家では冷房をつけていた。暑い季節の家は楽園と表現してもいいだろう。
今も頭の中では、楽園に帰ることを考えていた。もう少しすれば高校生になって初めての夏がやってくる、高校デビューに失敗してしまった俺には友達は綾瀬一人だけで、中学生の時から想いを寄せていた、水野さんにも気持ちを伝えることが出来ていない、追いかけてこの高校を受験したのに。
憧れていた高校生活を過ごすことが出来ず、お先真っ暗で、毎日のように学校が終われば、友達を引き連れて遊びに行く生徒達を羨ましいと思う心を殺しながら、横目で見ることしかできなかった。
今日も出来るだけ早く家に帰り現実逃避をしようと思っていたが、それは幼馴染であり、唯一の親友の綾瀬の言葉によって叶わぬ夢となった。
綾瀬「佐々木!今日学校が終わったら噴水公園に集合な!お前の母さんにも言っておいたから絶対来いよ、水野もいるからー!」
佐々木「は?」
俺には拒否権どころか、発言する暇も与えず、勝手な言葉を残し嵐のように走り去っていってしまった親友、帰りたい気持ちは強かった。でも自分を、今の生活を変えたい気持ちも同じくらい強かった。が、水野さんが居るという言葉がなければ、適当に理由を作って真っ直ぐ帰路についていただろう。流石親友、分かっているなと思った。
教室の一番後ろの窓際の席で空を眺めながら放課後を待った。
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