音の過去

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「その日は家に帰って部屋に閉じこもってずっと泣いて、6時半を過ぎてメールがありました。颯からでした。 待ち合わせ場所にいるけどどうかした?何かあった?心配してる。それを見て、悔しいのか悲しいのか、涙が止まらなくて、泣きながら返信しました。 ごめん、具合が悪くなっていけない。本当にごめん。今日はもう寝るから、明日、ちゃんと謝るね? 大丈夫か?気にしないで。ゆっくり休んで。おやすみ。」 「ちょっと!女にプロポーズした口でよくもまぁ!女の敵だわ!」 怒るマリーに音は感謝を覚える。 「朝になって、冷静に考えました。颯が破談申し入れたらどうなるか。 父は許しません。きっと全ての関連会社の取引を停止して、颯の継ぐはずの会社は倒産するでしょう。今の会社も父のとこですから、首になります。 好きな人が不幸になるのは嫌です。私から破談をと、考えました。好きな人がいると言って、当然、父はそいつを呼んでこいというでしょうし、言われてもいませんし、破談になっても次の縁談は幾らでもあるので、結局、好きでもない人と結婚をするんです。だから破談にしてほしい、好きな人と暮らすと手紙を書いて総てを棄てて、家を出て来ました。」 「え?大胆!」 「ふふっ…。でも、破談にしないと父が言っても、肝心の娘はいないわけだし、破談にするしかないでしょ? しかも悪いのは娘だから、最低限の取引は続けるはずです。少し経営難になるかもしれませんが、颯さんの努力次第で倒産の心配だけはありません。好きな人とも結婚出来ます。それに家にいたら、嫌でも颯さんに会ってしまう。 私のこれまでを全否定されて、空っぽのまま会いたくない。 ゼロからスタートしたい。新しい自分になりたい。父の選んだ相手ではなく、自分が選びたい。自立した女性として生きていきたい。 見つかりたくないから、携帯もカードも保険証も全部置いて来ました。 お年玉で頂いて貯めてたお金だけを全額下ろしてきました。それは父のお金ではないので…。」 「そこ、ちゃっかりしてるのね?でも確かに、お父さんのお金じゃないわね。 音のお金だわ。」 音……と名前を呼ばれて、心がホワッとなる。 「必ず、自立します。それまでよろしくお願いします。」 マリーに頭を下げた。 「もう、そういう事なら好きなだけいて?同じ家出仲間。私も高校出てすぐ家出。今は、時々帰ってるけどね。私は音の味方。オネエで嫌かもしれないけど。」 「マリーさんは、綺麗なお姉さんです。それ以外ではありません。」 はっきりと音が言うと、マリーは微笑み抱き着いた。
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