音の過去

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家出3日目…朝食を終えると、マリーは昼過ぎまで眠る。 音は仕事を探しに行くと言うと、マリーの名刺を渡された。 「ケー番書いてある。迷子にでもなったら電話して?公衆電話使えるわよね?」 「はい、大丈夫です。」 くすくす笑い、音は答えた。 「通帳と、携帯ショップ見つけたら買って来ます。」 「それがいいわね?バイトするにしても無いと不便だわ。 気をつけて、いってらっしゃい。」 マリーに見送られて家を出た。 昨夜。マリーからもらった家の鍵。 マリーが似てるわよ?と、ペンギンのキーホルダーを付けた。 ペタペタ歩いて、自立するのか…と笑えた。 出来るだけ安い携帯を買い、地図アプリを見ながら、銀行に行き、バイトを探した。 これまでバイトなんかした事はない。 父の許可も降りないし、習い事ばかりだった。 短大に入ってからは、我が家の長い家政婦の志津さんに教えてもらいながら、掃除、洗濯を習い、料理教室にも通った。 総ては、高原 颯 (たかはら はやて)の妻、高原総合商社の嫁になる為だった。 時々、思い出すと涙が出る。 涙を拭い、空を見上げる。 (私は、一人で生きて行く!もう、決めたの!) バイト探しを再開した。 歩き回り、一件の店の前で貼り紙を見つけた。 そこに飛び込み、話を聞いて、雇ってもらえる事になった。 給料は手渡し。当座は、困っているだろうからと、そういう事にしてくれた。 話と言っても詳しくしたわけではなく、親がいなくなり、社宅に住めなくなったと話した。 ネカフェに泊まったと言ったら、お金がないだろうから、現金でしばらくはと、言ってくれたのだ。 優しい人が多い、最初はアレだったけど、いい街だと思えた。
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